
それは突然の出来事だった。
僕は実家の前に立つ伯父と初めて出会う。
ランさんは幼い頃から僕の父に恋していたらしい。
長い時間忘れられないまま苦しんだそうだ。
自分が辛い思いをした責任を父ちゃんに取ってもらうためこの街に来たそうだ。

一度話を聞いただけでは判断がつかないけど、ランさんは臆病な人だと思った。
気持ちを切り替える勇気がない。片想いに浸ることで自分を守ろうとしている。
ランさんが報われない恋に依存したがるのは、
父ちゃんへの失恋とは別で何か原因があるような気がした。

ランさんからもっと話を聞いたほうがいいだろうか。
そして、父ちゃんからも―。
「もしもし、父ちゃん?父ちゃんたち、旅行からいつ戻ってくる?」
僕は父ちゃんにランさんのことを話してみた。
ちょうど明日、旅行先から帰ってくるそうだ。
帰りに僕の家へ寄ってもらうことになった。



「父ちゃん、パパ、お帰り。」

「旅行楽しめた?疲れてるところ来てくれてありがとう。雪振ってたんだね。
ランさん、今支度してるんだ、ちょっと待ってて。」
「うちの兄ちゃんがすまないな、ニケ。
突然来たっていうから驚いたよ。ずっと連絡取れなかったんだ。」
「そうだったんだね。」
ランさんは父ちゃんと長い間連絡を取らずに過ごしていたらしい。
ずっと一人で抱えていたんだろう。

「リア君・・・」
起きたランさんが外まで出てきていた。

すかさず父ちゃんの方へ迫っていった。
父ちゃんが実家を出て以来、会っていなかったらしい。
ランさんは寂しい思いと、それまで抱えていた孤独や不満をぶつけ始めた。
僕とパパは少し離れて様子を見ることにした。

「ねえ、どうしてあたしを置いて家を出ていったの?
あたしがいるのに結婚したのは何で?裏切りじゃない?おかげでずっと独りぼっちなの。
あなたは幸せそうよね。不公平だわ。
あなたを忘れるために知らない街を旅したけど無理だったわ。
全部責任を取ってちょうだい。」

「落ち着けよ兄ちゃん。責任って何の責任だよ。
俺はただ独り暮らしをするために家を出ていっただけだ。話したよな?
出て行った後も家に手紙を出してるよ。頻繁に連絡はしなかったけどさ。
結婚の話も、落ち着いて考えてくれ。
俺たちは兄弟だし、愛を誓った覚えもない。裏切ったと言われる意味が分からねぇよ。
兄ちゃんが俺のことを恋愛対象として見てたことには気付かなかった。
そのせいで傷付けていたことがあれば謝る。
けど、兄ちゃんは本当に意味分かってるのか?
兄ちゃんの辛さの原因は他のところにあるんじゃないのか?」
「・・・違う。そういうのじゃない。」

ランさんは取り乱して僕の家へ入ってしまった。