11/13/2016

【AC編】006 再び(完)


長く想っていたリア君と会うことができた。
やっと会えたのに、あたしの辛さは消えなかった。

リア君に会って、あたしの辛さをぶつけて、謝ってもらいたかった。
謝ってもらったら自分の辛さが救われると期待してた。
自分が辛くなった責任を取ってもらえると思ってた。

「兄ちゃん、長く一人にさせてごめん。
兄ちゃんを一人にさせたのは俺だから。俺のせいだから。」
そんな風に言ってもらいたかった。





「ランさん、父ちゃんたちは帰りました。大丈夫ですか?」


「・・・うん。
やっとリア君に会えたのに
顔を見たら気持ちがグシャグシャになって感情的になっちゃった。
せっかくの再会が台無しね。
それに、何も変わらなかった。揉めて気まずくなっただけ。
どうすればよかったのかな。」




「ランさんは、小さい頃から自分を抑えることが多かったんですね。
困ったときに人に頼れなかったり、
自分の本心をストレートに伝えることが苦手じゃなかったですか?

多分、自分の行動の責任を取ることが怖いんだと思います。
幼い頃、責任を取ってもらうべき人に取ってもらえなかったから。
父ちゃんに聞きました。ご両親のこと。」





「確かに自分が兄だからしっかりしなきゃってプレッシャーは感じていたわね。
誰にも甘えられなかった。
認めてもらいたくて“どんな自分だったら受け入れてもらえるか”をずっと考えていたわ。
でも、正解が分からなかった。
だから人と関わるのがすごく苦手だし、自分の想像の世界に籠ってる方が好きだった。
自分らしく生きていられる空間を自分で作るしかなかったの。

唯一リア君だけが理解者だったのに、家を出ていかれて結婚までされちゃった。
裏切られたような気分だった。
自分の孤独をリア君のせいにしないとやっていけなかったの。
それもあたしの責任が関係しているの?」




「孤独になった理由が自分にあると話したら、納得できますか?
本来、自分が取った行動に伴うものです。
ランさんが人に臆病になって自分の世界に籠った。その結果です。
でも、ランさん自身はそう思えない。“そうせざるを得なかった”と感じているから。
本当は子どもの頃にもっと周りの人間から受け入れてもらっていれば違ったと思います。
だからある程度は親の責任でもありますね。」

「そんな今更な話をされても・・・。」

「はい。過去のことはどうしようもないです。
それに、原因が分かったからそのせいにすればいいかと言ったらそうじゃないんです。
それじゃあまり変わらない。
納得いかなくても受け入れないと進めないこともある。

ランさんの悩み、問題がどうすれば消えるのか。
それは人にしてもらうことじゃない。
ランさんが自分の境遇をどう捉え、それに対してどうするかを考えることです。」




「そんなの分からないわよ。それに自分でどうこうできないから苦しんでるんじゃない。」

「ランさん、分からないことに焦らないで
何が分からないか、どうすればいいか、どうしたいか、整理して下さい。
考えても分からなかったら人に聞いてもいいし、本とか探してもいい。
探しても見つからないときは、時間に委ねればいい。今分からない問題だって存在します。
自分の問題に対してどうあるかは、自分が決めること、決めていい事なんだ。」

「・・・」




一度に色々なことを言われて話を聞くので精一杯だった。

「あたし今、頭の中がいっぱいになってるわ。
結局どうすればいいか分からないんだけど。」

「そうですね。
要約すると、ランさんが抱えてる問題は解決してるようなものです。
孤独感の解消については、
僕とこうして話ができたので、少しは抱え込まなくて済むようになったと思います。
そして父ちゃんへの恋愛感情ですが、
忘れられないのは責任を取ってもらいたかったからですよね。
今は父ちゃんに対してどう感じてますか?前とは違ってませんか?」




「・・・」

そう言われると、前に抱いてた感情がどういうものだったか思い出せなくなっていた。

「なんで分かるの?」

「恋愛じゃないと思ったからです。
それに今回の件でランさんは孤独に陥った原因が育った環境からきてると分かったので、
父ちゃんに責任を負ってもらう必要性を感じなくなってませんか。」

「・・・うん。」

「じゃあ一段落しましたね。
まだ吞み込んでない部分もあると思いますが、ランさんはもう一人じゃないですよ。
父ちゃんも、困ったらいつでも連絡してと言ってました。
僕も、何かあったら頼って下さい。」

「そっか・・・。まだ整理できてないけど、心が軽くなったかもしれないわ。」

「よかった。今後自分がどうすればいいのかについては
焦って答えを出さなくてもいいと思います。
今は自分のことが前より分かるようになりました。一歩進んだじゃないですか。
そしてこれからはいろんな人と出会って、また新しい考え方とも出会えると思います。
焦らず自分を大切にして納得のいく考え方を見つけてください。」

「なんだかお医者さんみたいね。もう一人のパパに似たのかしら?
憎たらしいけどありがたく受け取っておくわ。」

「あはは、医者はこんな無責任なこと話しませんよ。」






ニケ君と話してから、あたしは自分の行動の責任を取ることに怯えているのだと気付いた。
それは幼い頃に早い段階で責任を求められた家庭環境のせいでもある。
誰かに自分を受け入れてもらえた経験が少なかったから、いつまでも幼稚なままだったのだ。
何をしても満たされない理由は幼い心が引き起こしていた。

自分の境遇について少しでも理解してると前より冷静でいられる気がした。
そして弱音を吐く場所があると素直になれることを知った。
吐いた後はなぜかすっきりとして、また頑張ろうという前向きな気持ちになるのね。
少しずつ勇気を持てるようになりたい。

あたしはニケ君にお礼を言って、また一人で旅をすることにしたわ。
今度は新しい街で、純粋に人生を楽しんでみたい。
自分と人と向き合いながら。



おしまい